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福岡地方裁判所小倉支部 昭和23年(ヨ)90号 判決 1948年11月09日

主文

債権者等から債務者会社に対する従業員解雇無効確認事件の本案判決確定に至る迄

債権者等が夫々仮りに債務者会社の従業員であると云う地位を定むる

訴訟費用は債務者の負担である

事実

債権者(申請人)代理人は申請の趣旨として申請人等から被申請会社に対して福岡地方裁判所小倉支部に提起した従業員解雇無効確認訴訟の判決確定に至る迄申請人等が被申請会社の従業員たる地位を仮りに定むる旨の裁判を求めその申請の理由として申請人等は孰れも被申請会社小倉支店の従業員であつて申請人吉村は昭和九年五月入社現に整理部員、全日本新聞労働組合朝日支部西部分会執行委員長、申請人毛利広は昭和十七年一月入社現に社会部員、組合西部分会副執行委員長、申請人中屋祥二は昭和二十一年五月入社現に人事部員、組合西部分会会計監督であり孰れも雇傭期間の定はないものであるところ昭和二十三年十月八日同組合と被申請会社との間に新給与体系の交渉成立し之に依り昭和二十一年十一月を基準として年齢給、家族給、能力給、勤続給決定し之を其の後の物価上昇率に応じてスライドさせることに決定した然るに昭和二十三年九月分のスライド率に付会社は四、一を、組合は四、三を主張して対立したが同年十月十三日交渉決裂し組合は同月十四日闘争宣言を発して闘争体勢に入り申請人吉村は組合西部分会に於て闘争委員長、申請人毛利は同副委員長、申請人中屋は同闘争委員となつた斯くて組合西部分会は同月十四日指令第四号に依り債権者等指導の下にストライキに入り一旦中止して同月十六日再び四時間半ストライキに突入した処被申請会社は団体協約附属覚書第三条に「会社は正当な争議中の支部員の部署を他の如何なる者を以ても代置出来ない」とあるのに違犯して非組合員による新聞発行を企図し組合員の部署に侵入しようとしたので組合はスクラムを組んで(数人が腕を組合せて立塞がること)之を阻止したが之れは勿論正当なる争議行為として行動したものであるのみならず会社と組合との団体協約乙号に依ればその第三条に依り「会社は従業員の雇傭並支部員の解雇、異動、懲罰については組合支部の承認を求めねばならない」との定があり右協約は昭和二十一年締結せられ以来その侭更新して居る内昭和二十三年十月十三日会社から解約の申入があり組合は即日中央並地方労働委員会に提訴し目下交渉中であるから同第十四条に依り有効なものであるから会社としては孰れの観点からするも解雇権がないに拘らず昭和二十三年十月二十一日突如申請人等に対し解雇を言渡したその理由は「去る十六日西部本社印刷局に於けるストの際会社側の正当なる要求を拒否したのみならず積極的に会社の新聞発行の業務を阻害した行為に因る」と云うのである然し右の理由は団体協約に違反し且労働組合法第十一条労働関係調整法第四十条に違反し不法であるから即日之に対し異議の申入を為し且福岡地方労働委員会に提訴したが会社は申請人等に対し進んで立入禁止を求め様とする気配があり且申請人等としては斯る不法且理由のない解雇により生活権を脅かされ様として居るから止むを得ず解雇無効の判決を求むる為御庁に従業員解雇無効確認の訴を提起したけれども既に会社は解雇を申渡して居り即日から失業し路頭に迷うの外ない急迫な事情にあり将来勝訴の判決を受けても之を回復することの出来ない損害を蒙むる虞があるから地位保全の為本申請に及んだ旨及被申請会社の小倉支店は俗に西部本社と称し申請人等の属する組合は被申請会社の各職場を通じて組合朝日支部を設け更に各職場毎に分会を設けて居る旨及相手方の答弁に対し、(一)答弁第一項に対し昭和二十三年十月十四日申請人吉村が闘争委員長として被申請会社に対し組合は争闘態勢に入り同日争議に突入する旨を申入れこれを組合員に宣言してその準備に着手し労調法第三十六条の規定の精神に基き活版部の保全要員十二名を選定し会社側の承認を求めて之を得たことは認むる、(二)答弁第二項に関し相手方主張の様な通告は正式にはなかつたが貼紙のあつたことは認むるしかしその内容は虚偽である例えば東京での暴行と云うのは組合側は平静であつたが罷業破り派が不法行為を為したのである、(三)第三に関し会社からの退去の申入に対する申請人吉村の回答の内容は否認するそれは会社が新聞製作を強行する意思を持つことは自由であらうが我々は団協乙号覚書により非組合員で組合員の部署を代置せしめる様なことは飽迄拒否すると共に同覚書に明記されて居る正当なスト中の社屋出入の自由を保持するから会社側の云う様に団協無効の立場に立つて経営者として職場退去を要求することには服さないしかし徒らな摩擦はなるべく避け度いので場合によつては職場を退去することがあるかも知れないがこれは我々の自主的判断に基く行動であつて決して会社側の要求を正当として服するものではないしかもこの場合と雖非組合員によつて組合員の部署を代置せしめようとする様な行動があればこれを拒否する丈の最少人員は残して退去する旨を強調したのである、(四)第四項に関し組合員が十分間スクラムを組んだことは事実であるが米山に対して暴力を加えたことはなく実に平静であつた同人の傷害は不知、若し傷害したとすれば同人自らの過失に因るものである黒住局長の問に対し申請人吉村は会社の主張する様な答はしていない吉村は吾々は団体協約有効の立場に立つて正当なストライキを行つている若し退去を欲するならば団体協約無効の判決を持つて来いと答えたのである、保全要員は充分配置して居り保全に事欠ぐことは絶対になかつた、(五)第五に関し否認する殊に威力や暴力は全く用いて居ない、(六)第六に関し会社主張の就業規則は何等拘束力がないものである会社は初め甲二号の案を示して組合に意見を求めて来たが組合は之に対し意見を述べることを拒否した此の拒否した意見を具してしかも甲二号の案と異る就業規則を労働基準監督署に届出た斯る届出は基準法が強制届出主義である為一応受理するが組合に対し拘束力はない況んや労働組合法や労調法に反して其の効力を有するものでないことは明かである、(七)第七に関し不知仮りにかかる事があつても労働組合法第一条第二項に依り申請人等に責任はない、(八)第八に関し会社の主張は否認する、(九)第九に関し日本新聞通信放送労働組合が全日本労働組合に発展改称した為に別個の社団となつたかどうかと云う点は先ず当事者の意見を推測して決し且つそれが関係者の既得権に影響するかに依つて決すべきである当時の組合員は同一組合の存続で、あることを信じ且権利義務一切をその侭存続することを申合せたのである当事者の意思は同一組合なることに一致して居た之が法人であれば定款変更のみで何等疑問の余地もなかつた程度の変更である又斯る変更は会社に対し以前より不利を来すものでもない中労委は之に対して本問題は裁判所で決すべきことであると表明したに過ぎない乙二ノ三は会社の宣伝文であり乙二ノ四ノ一は新聞経営者の機関紙であり其の内容は虚偽である組合から中労委に対し照会したところ中労委は正式に斯かる発表をしたことはなく末弘氏が個人的に座談として会社側に話したに過ぎないことが分つたそこで末弘氏に確めた処自分が座談として斯かることを云うたが自分の見解としては少くとも団体協約乙号は無効と断定出来ぬと述べた、(一〇)第一〇に関し本件争議は正当であるから業務妨害とはならぬことは労組法第一条第二項に依り明かである労調法第四十条の解釈についての会社の解釈は全く誤解である所論の閣議決定に所謂違法な争議と云うのは争議自体が違法な場合即ち政令二〇一号違反とか労調法第三十八条違反の場合を指すものであり此の時は労働委員会の同意なくして解雇出来るが争議自体は違法でなく争議の目的又は手段に於て争議権の濫用と見られて違法であるかも知れぬと云う場合は元来其の適法違法は判決を待たねば明かとならないからそれを使用者の一方的解釈で違法として解雇することは出来ないその場合は労働委員会の同意がなければ解雇出来ないのである、(二)第一一に関し組合員が脱退したのでなく会社が切崩しを行い脱退者を作りつゝある第二組合結成準備会に会社代表加藤が自ら面接し之を激励して居る一方申請人等は職場、浴場、食堂に出入せず唯組合事務文に出て居る罷業も以来中止して居る旨各陳述し尚日本新聞通信放送労働組合は昭和二十三年七月二十七日新組合設立と同時に之に発展する旨の決議をし全日本新聞労働組合は同月三十一日前の組合員であつた赤旗社を除き新に読売新聞社外数社を加えて結成大会を開き前の組合の決議を承認したそして同年九月七日前の組合の解散届と後の組合の仮設立届とを同時に東京都労政事務所に提出し更に同年十一月二十九日後の組合につき正式に設立届を提出し斯様に解散と設立の形式を採つたのは神田労政事務所で形式上斯様な形式にする外はないと云う意見であつたからそれに従つたのである旨附陳した。(疎明省略)

債務者(被申請人)代理人は申請人の申請は之を却下する旨の裁判を求め答弁として申請人の主張事実中(一)雇傭関係組合及闘争に於ける地位に関する部分は申請人吉村の正式入社は昭和十年五月十五日であるとする外之を認むるが申請人等の属する全日本新聞労働組合朝日支部は予て被申請人会社に対し新給与の申入をして会社と交渉継続中会社案の承認が出来ないとして同支部西部分会最高闘争委員長である申請人吉村益郎から会社に対し昭和二十三年十月十四日争議態勢に入り同日争議に突入する旨を申入れこれを組合員に宣言しその準備に着手し組合から労働関係調整法第三十六条の規定の精神に基き活版部の保全要員十二名を選定して来たので会社側も之を承認した、(二)そこで会社は違法争議の惹起することを慮り且東京本社等の争議の際に発生した不法行為の実情に鑑み翌十五日組合員に対し「本社は十四日東京本社大阪本社印刷局に発生した通路遮断、職場占拠、就業希望者の就業妨害等の業務妨害行為については調査の上厳重な処分をする尚今後も次に依り処置するから念の為に茲に通知する、(一)スト参加者は直ちに職場から退場を命ずる、(二)次の事項に該当するものはそれぞれ業務妨害暴行等の理由に由つて厳重処分すると共に法規に照して告発する(1)退場の命に従はないもの(2)就業希望者の就業を暴力又は威嚇を以て妨害したもの(3)通路遮断、会社施設の占拠などの行為に依り会社側の業務遂行を妨害したもの(4)前三項の行為を指令した組合機関の責任者」旨通告を発した、(三)然るに組合は翌十六日会社に対し印刷局に限り争議によつて作業を中止する旨申入れて来たので会社は闘争委員長である申請人吉村益郎と面接して会社側は飽迄新聞の発刊の意思であるからその業務の妨害にならぬよう工場からの退去を申入れたところ同人は会社の正当な新聞発行は妨害しないがその他会社の行為に対しては対抗待機する若し万一会社の新聞発行に対し摩擦の起つた場合にはその責任を負う旨を明言した、(四)其処で会社は新聞の使命の重大性に鑑み発刊を決意し緊急協議の結果取敢えず部長以上の非組合員によつて操業することとし四版(八時より八時五十分の間に活字の組版を作る作業)を大業(一頁に組版の作業)する為会社側職制幹部の黒住編集局長外各局長編集、印刷各部長が活版工場に赴き先づ佐甲活版部長が大組合に就こうとしたところ申請人毛利広分会闘争副委員長、同中屋祥二分会闘争委員等は活版部員である組合員にスクラムを組む様指揮して之を取囲ませスクラム中にあつた(スクラムを組むと云う意件は債権者側の云う通り)米山写真部長を暴力を以てスクラム外に引出し技飛ばそうとした為同部長は活字大組台の端で左小指に治療日数五日を要する傷害を負うに至つた仍つて黒住編集局長は申請人吉村に対しその不法な妨害を詰問したところ同人は職場は組合員のものである支部員以外のものを以て作業することは団協に違反すると答え威力を用いて飽迄業務を妨害する態度を示したので止むを得ず作業を断念一応現場を引揚げたがその後警察官の来場を見るに及んで申請人吉村は争議の解除を申入れ漸く組合員は現場に復帰し作業を継続することが出来た此の現場の模様につき組合側は同日保全要員全部の配置を為さず而も保全要員中五名はスクラム中に在つた状況で保全要員迄違法行為に参加する状況から見れば申請人等は労調法第三十六条に明かに違反した行為を敢行したものと云う外はないと云うことを附言して置き度い、(五)以上の様に会社は予め事態の紛糾と違法行為の発生を慮り事前に組合に対し新聞発刊の重要性を訴えその作業の妨害をしない様に要請して置いたにも拘らず申請人等は相共謀して非組合員たる会社側当事者が作業の為現場に現はれるのを予想してその作業を妨害する為予め職場組合員に指令を発しこれを指揮して威力と暴力を用い正当な会社の業務を妨害しその上米山写真部長に傷害迄負はせたので会社は申請人等三名を昭和二十三年十月二十一日附で解雇したが、(六)右の解雇処分は申請人等の右の所為が会社の就業規則第十条第十一条ノ四第六十五条第一項第六、九、十一号第六十六条第四項に該当するから同規則に依つて処分したものでありその解雇の方法は労働基準法第二〇条に所謂即時解雇に依つたので予め三十日分の賃金を提供したが申請人等がその受領を拒絶した為右賃金は供託した右即時解雇については労働委員会の同意も労働基準監督署長の認定も受けて居ないこれは争議行為をしたこと又は相手方の責に帰すべきことを理由としたものでないからである、(七)会社は申請人等の右の業務妨害行為に因つて通常の発行部数六十二万八千部中十五万七千七百部を同日中に発刊し得たのみで残部四十七万三百余部は完全に列車に積遅れ翌日追送するのやむなきに至り多大の損害を蒙むると共に読者たる一般大衆に非常な迷惑を掛けた、(八)それから申請人等は同人等の属する前記労働組合と被申請会社との間の団体協約を云々し敍上の様な会社側非組合員の新聞発行作業が同協約附属覚書第三条に違反するとか又右の解雇が団体協約乙号第三条組合支部の承認を求めねばならぬと云う規定に違反して居ると主張するが右の団体協約は日本新聞通信放送労働組合と被申請会社との間に締結したものであつて同協約は既に失効し申請人等の属する全日本新聞労働組合及組合朝日支部との間には現在団体協約は存しないのであるから申請人等の右の主張は当らない、(九)右協約失効の事情を述べると会社は昭和二十一年十一月三十日日本新聞通信放送労働組合(以下単一組合と称す)との間に労働協約を締結(以下甲号協約と称す)し同時に本協約に基いて単一組合朝日支部との間に協約を締結(以下乙号協約と称す)したが、同協約は昭和二十二年十一月三十日を以て契約期間が満了するので会社は同年十一年二十八日甲号協約を廃棄し乙号協約のみ更改締結したき旨を組合側に通告した之に対して翌二十九日組合側から甲乙協約とも新協約の締結を申入同時に中央労働委員会に提訴した旨通告して来たこれに先立ち会社は期間満了前から乙号更改案の起案に着手し団体交渉に応ずる準備を整えて居たが組合側から交渉再開の申入なく半歳を徒過しその後六月九日に至り組合側から漸く交渉の申入があり甲号及乙号協約案と経営協議会規定案の提示があつたので会社側は組合案に精細検討を加えると共に会社更改案とも併せて検討を加え最後案を決定六月三十日之を組合側に提示し七月三日から団体交渉に入る運となつた併しながら前記の理由から両者の見解は全く相反し七月八日遂に双方物別れとなつたそこで会社側は一刻も早く事態を打開し朝日支部との間に新協約の締結を念願し七月十日中労委に提訴斡旋を申請した処がこの後昭和二十三年七月二十八日前記単一組合は解散し新に全日本新聞労働組合(以下全新労と称う)が結成せられ右単一組合は消滅しその人格を喪失したので八月三日会社側から組合側に対し甲乙両号協約消滅の通告を発し八月二十日更に両協約の消滅を通告すると同時に暫定措置を採る旨通告を発した之れに対して組合側は解散した単一組合は八月一日結成を見た全新労に発展的に統合したものとの見解をとり統合された各組合の権利義務その他提訴などの法律上の地位は全く全新労に継承されたものであるとの旨を朝日支部から通告して来たしかし単一組合と全新労とはその宣言、綱領、執行機関構成員等大に相異し且つ前者の解散と後者の結成の経緯から見るも両者は全然別個の人格となつたのである従つて会社は組合側に対し単一組合の解散に因り既に期間満了して居る甲乙両協約は自動的にその効力を消滅したものであるとの見解を明かにした中労委も本件に関しては会社側の見解が正当であつて単一組合は解散に因り消滅したものであるとの見解を発表して居る以上の次第であるから申請人主張の団体協約は孰れも既にその効力を失い現在会社と申請人等の属する組合との間は全然無協約状態である、(一〇)申請人等は本件解雇が労働組合法第十一条労働関係調整法第四十条に違反する旨主張するけれども右の両法条が労働者の団結権及団体交渉権の保護を目的とするものであることは勿論で前者は労働者の団結権に対する使用者の妨害乃至圧迫に対する保護であり後者は労働争議が発生した場合に於ける使用者の不正行為を禁止するものであるしかしながら労働組合法第十一条に依て保護されるのは労働者が労働組合の正当な行為を為した場合であり正当でない違法な行為を為した場合には同条に依つて保護される限でない蓋し憲法に依る団結権の保障を具体化する同法条は同じく憲法に依つて保障される使用者側の所有権其の他多くの権利に一定の制約を加えるが労働運動も亦所有権其の他の権利の下に多く制約を受けるものであつて労働運動のみがその正当性を超えてまで他のあらゆる権利に優先して保護されねばならぬ理由は何処にもない従て組合運動と雖それが経営能率の低下又は経営秩序の破壊に過ぎないときはそれは団結権保障の埓外に置かれるものでありその運動が組合運動たるの形式を備えて居るとしてもその実質に於て違法性を有する限り正当な組合活動と云うことは出来ないのでそれは同法条に依て保護され得るものではない(同趣旨の労組法第十一条違反被告事件東地判昭和二十三年三月十一日言渡)況してそれが本件のような傷害乃至は業務妨害の違法行為を構成するに至つては到底同法条に依て之を保護すべき筋合でないことは勿論である次に労調法第四十条は単に労働者が争議行為を為したことを理由として規定し文言上其の行為の適法であると違法であるとを明言して居ないが昭和二十三年二月二十七日の官庁職員の官紀粛正に関する閣議決定に於ても政府は官庁非現業員の違法な争議行為については労働委員会の同意を必要としない唯違法性の程度がしかく明確でない不当な争議行為を理由とするときにのみ労働委員会の同意を必要とする見解を表明して居り同法条も前記労組法第十一条と同様正当でない違法な争議行為迄も保護する趣旨ではない蓋し違法な争議行為に依つて使用者が経営秩序を紊され又業務の妨害その他不当の妨害を受けた場合でも使用者は之に対抗する手段を講ずることが出来ないで拱手傍観他に方途がないと云うことは決して合理的な解釈ではないからである換言すれば何処迄も争議権の濫用は許されないのでありこの濫用の結果違法性を帯ぶるに至つた争議行為に関する限り使用者は之に対抗する手段として労働委員会の同意を得ることなしに解雇その他の処置に出ることが出来るものと解釈しなければならない唯其の行為が明白に違法と断ずることが出来ぬ場合違法か不当か其の限界の不明瞭な場合にのみ労働委員会の同意を必要とするものである右の如くその行為の違法か不当かの標準を一応使用者側の判断に委ねると云うことは使用者が同法を濫用して労働者に対し不正な解雇その他不利益な取扱をする虞があると云う批難があるとすればそれは単に一般的な法規軽視の観念を高暢して其の責任を一方的に反対当事者に負担させようとする偏見に過ぎぬのであつて法は飽迄正義と公平とを其の内容どしこれが健全なる社会常識に依て運用されることを前提としてのみその存在価値を認めることが出来るのであつて吾々がその常識に信用が置けないと云うことになれば如何に千万言を費してもその内容を実現することは不可能である殊に本条の場合はその常識的運用が最も愼重に行はれることを要求して刑罰法規を以て担保されて居るのである尚争議権の限界を規定したものと見られる労働組合法第一条第二項も労働組合の為した正当な行為に付てのみ適用があるもので暴行脅迫器物毀棄業務妨害等犯罪行為を構成するものは勿論争議権の範囲を逸脱したもので正当な行為とは云えない従つて有形力の行使を前提とする争議行為生命身体名誉に対する侵害行為は違法性をもつものである而もその違法性を阻却する為にはその行為が争議目的達成の為に巳むを得ない必要に依て為されたものであり且争議行為に依て業務の経営を阻害される害悪の程度が著しく均衡を失しないことも必要である労働組合員が非組合員の就業の為の出勤をスクラムを組んで妨害した行為を業務妨害罪として有罪の認定をした判例がある(昭和二三、四、三〇山形区)右に詳論した様に本件解雇は決して労組法第十一条又は労調法第四十条に違反するものではない、(二)尚右業務妨害行為の発生した後組合員は今回の行為が不当であつたことを悟つたものか自発的に脱退する者続出し申請人等三名は会社内の組合事務所にしばしば出入して協議を重ね居る模様であるから争議は益々深刻化し或は再び今回の如き或はより以上の違法行為誘発敢行する様な事態が惹起されることがないとは保し難いことを憂慮して居る次第であるから本仮処分に依り従業員の仮の地位を定められることは危険であると思惟する次第である以上何れの点からするも申請人等の本件仮処分申請はその理由がないから右申請の却下を求める次第である旨陳述した。(疎明省略)

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